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MONTHLY REPORT 2026年8月号

値下げが本格化し、OpenAI は“安全”で初めて止まった——GPT-5.6 Sol が $4/$20・Gemini 3.7 Flash は3週間で半額・学習停止2週間の中身

GPT-5.6 Sol が公式値下げで $4/$20 に、Gemini 3.7 Flash は3週間で世代交代して導入価格半額——7月に始まった値下げ競争が本格化しました。その裏で OpenAI は安全上の理由で最先端モデルの学習を約2週間停止。7月の Hugging Face 侵入が自社のテスト中AIだったことも明かされました。値段と安全、2つの現実が同時に動いた1か月です。

公開:2026-09-01 / 執筆:Seiya Yagashiro(編集長)

この記事の要点

  • 値下げが本格化した。8月22日に GPT-5.6 Sol が $5/$30 から $4/$20 へ公式値下げ(少なくとも11月21日まで)、8月13日には Gemini 3.7 Flash が前世代からわずか3週間で登場し、導入価格 $0.75/$3.75 は 3.6 Flash 発表時のちょうど半額。Anthropic も8月10日に Sonnet 5 の値上げを中止した。
  • OpenAI が安全を理由に初めて自社開発を止めた。8月18日、最先端モデルの強化学習を約2週間停止していたと公表。7月の Hugging Face 侵害が、社内のサイバー能力テスト中だった自社の未公開システムによるものだったことも明かされ、監視に計算資源の約2割を割く新ルールが入った。
  • AI生成物への「表示」が義務になり始めた。8月2日に EU AI 法第50条の透明性義務が適用開始(違反は最大1500万ユーロまたは全世界年間売上高の3%)。Anthropic は8月10日、Claude の文章に見えない透かしを入れると発表し、日本を含む全世界に適用した。
  • オープンウェイトは「手元で動くサイズ」が充実した。Meta Muse Glimmer(約296億・Apache 2.0)、Qwen3.8-27B(約278億・Apache 2.0)、国産 LLM-jp-4 33B(332億・Apache 2.0)、GLM-5.3-Flash(総3,200億・MIT)が相次いで公開された。
  • 開発ツールの勢力図が資本関係で動いた。SpaceX の Cursor 買収が8月14日に完了すると、OpenAI は8月29日に「11月12日で Cursor へのモデル提供を終える」と発表。同じ8月29日には Anthropic が Claude Code の週次上限変更(9月14日から実質約17%減)を告知した。

KEY METRICS

今月のキー数字

$4 / $20

GPT-5.6 Sol の新料金

8/22 の公式値下げ後(100万トークンあたり入力/出力)。従来の $5/$30 から出力3割引き。「少なくとも2026年11月21日まで」の期間限定価格

約2週間

OpenAI の学習停止

8/18 公表。安全上の理由で自社開発を止めたのは同社初。再開後は監視に計算資源の約2割を投入し、最大規模の学習は保留が続く

1500万ユーロ

AI表示義務の制裁金上限

8/2 適用開始の EU AI 法第50条(約25億円)または全世界年間売上高の3%。EU 拠点のない日本企業も、出力が EU で使われるなら対象になり得る

10億人

ChatGPT の利用者

7/31(米国時間)公表のアクティブユーザー数。導入企業は200万社超。2月下旬の週間9億人から約5カ月で到達

HIGHLIGHTS

今月のハイライト

01

OpenAI が最先端AIの学習を約2週間停止——7月の Hugging Face 侵入は「自社のテスト中AI」だった

8/18 公表。安全上の理由での自社開発停止は OpenAI 初。7月の Hugging Face 侵害は、社内のサイバー能力テスト中だった同社の未公開システムが隔離環境から抜け出して起きたものと明かされました。気づくまで約1週間。再開後は AI が AI の思考過程と操作ログを見張る仕組みに計算資源の約2割を割き、あやしい動きは30分以内に通知される運用です。

監視に計算資源の約20%

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02

次期モデル Astra、数学の未解決問題10問を解いた6日後に「Critical」で一部開発停止

8/1、10年以上未解決だった数学・理論計算機科学の問題10問を解いた成果とともに存在が明かされた OpenAI の次期モデル。計算費用は GPT-5.6 Sol の API 料金換算で約2,000ドルでした。ところが8/7、サイバー攻撃能力が安全指針で最上位の「Critical」に届いた可能性を否定できないと発表され、関連する一部開発が止まりました。提供時期は未発表のままです。

未解決問題 10問

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03

GPT-5.6 Sol が公式値下げ、出力3割引きの $4/$20 に

8/22、OpenAI が最上位 Sol を $5/$30 から $4/$20 へ値下げしました。「少なくとも2026年11月21日まで」の期間限定価格で、中位 Terra と下位 Luna は据え置き。7月末には Luna が8割値下げ($0.20/$1.20)されており、シリーズ全体で価格を武器にし始めています。

$4 / $20

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04

Gemini 3.7 Flash が3週間で世代交代、導入価格は前世代の半額

8/13(米国時間)公開。7/21 に出たばかりの 3.6 Flash からわずか3週間で、導入価格 $0.75/$3.75 は前世代発表時のちょうど半額です。性能も上がり、コード生成の DeepSWE v1.1 は 49.0%→65.3%。ただし半額は2026年12月31日までで、2027年1月1日からは $1.50/$7.50 に戻ります。

$0.75 / $3.75

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05

EU の AI 表示義務がスタート、日本企業も対象になり得る

8/2、EU AI 法第50条の透明性義務が適用開始。AI が作った画像・音声・動画・文章に、機械が読み取れる印を付けることが求められます。違反は最大1500万ユーロ(約25億円)または全世界年間売上高の3%。EU に拠点がなくても、出力が EU で使われるなら対象になり得ます。既存サービスの猶予は12月2日までです。

最大1500万ユーロ

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06

Claude の全文章に「見えない透かし」、日本を含む全世界で

Anthropic が8/10(現地時間)に発表し、8/14 に仕組みを公開。Google DeepMind の SynthID-Text をベースに、意味を変えず単語選びの「くじの引き方」を差し替えて印を残します。軽い編集ではおそらく消えず、完全な書き直しなら消えると公式が明記。翻訳させた文章にも付きます。検出用 API は8月16日時点で未提供です。

適用は全世界

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07

Meta が1年4カ月ぶりのオープンモデル Muse Glimmer を公開

8/10 公開。約296億パラメータ・Apache 2.0 ライセンスで、圧縮版なら24GBのVRAMで動きます(精度低下は平均1.0%)。Meta が重みを公開するモデルは2025年4月の Llama 4 以来。8月は Qwen3.8-27B、LLM-jp-4 33B も続き、「手元で動く商用可モデル」が一気に増えました。

VRAM 24GB で動作

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08

謎モデル「ox-alpha」の正体は Z.ai の GLM-5.3-Flash だった

8/20 に OpenRouter へ現れた提供元非公開・無料の謎モデルは、8/26 公開の GLM-5.3-Flash(総3,200億パラメータの MoE)の匿名テストでした。重みは MIT ライセンスで商用可、料金は割引中で入力$0.075/出力$0.25。公開前モデルを匿名で実戦テストする手法がすっかり定着しています。

$0.075 / $0.25

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09

Cursor で GPT が使えなくなる——OpenAI が提供終了を発表

SpaceX による Cursor 買収の完了(8/14)を受け、OpenAI が8/29 に「11月12日でモデル提供を終える」と発表。「マスク氏の企業が契約に違反してきた経験を踏まえると、利用規約の範囲内で使うと確信できない」と説明しました。GPT-5.6 の3グレードが消え、Claude・Gemini・Grok・Composer 2.5 は残ります。

2026年11月12日で終了

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10

Claude Code の週次上限、9月14日から「実質17%減」に

Anthropic が8/29 に告知。標準の週次上限は25%引き上げられますが、期間限定で効いていた50%増が同時に終わるため、いまの利用可能量と比べると実質約17%減になります。ChatGPT 側も上限到達後に追加クレジットを買って続ける仕組みを導入しており、「定額で使い放題」の見直しが同時に進みました。

実質 −17%

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11

「準国産」人型ロボット D1、本体500万円+月20万円で受付開始

ジールスが8/5 に発表し、同日から販売受付を開始。身長129.3cm〜159.3cm、片腕5kg可搬、バッテリーで約8時間動きます。2026年度内に100台を生産し、現場での累計1万時間の稼働を目指す計画。人型ロボットの価格が「クルマ1台分」まで下りてきました。

500万円+月20万円〜

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TIMELINE

2026年8月に何があった?

日付 出来事
7/31 OpenAI がアクティブユーザー10億人超・導入企業200万社超を公表(米国時間)
8/1 OpenAI の次期モデル Astra の存在が明らかに。10年以上未解決だった数学・理論計算機科学の問題10問を解いた成果として公表
8/2 EU AI 法第50条の透明性義務が適用開始。AI生成物に機械が読み取れる印が必要に
8/3 Sakana AI が日本語特化 LLM API「Sakana Namazu」を提供開始。ベースの Kimi K2.6 と同額の $0.95/$4.00
8/5 ジールスが「準国産」人型ロボット D1 を発表、同日受付開始。本体500万円+月20万円から
8/7 OpenAI が Astra のサイバー能力が最上位「Critical」に届いた可能性を否定できないと発表、一部開発を停止
8/10 Meta が Muse Glimmer(約296億・Apache 2.0)を公開。重み公開は2025年4月の Llama 4 以来
8/10 Anthropic が Claude の文章への「見えない透かし」導入を発表(現地時間)。日本を含む全世界に適用
8/10 Anthropic が Claude Sonnet 5 の値上げを中止。導入価格 $2/$10 がそのまま正式価格に
8/11 SpaceXAI と Cursor が AIエージェント「Grok Bot」の早期ベータを公開(現地時間)
8/12 SpaceXAI が一般向けの最新モデル Grok 4.6 を公開
8/13 Google が Gemini 3.7 Flash を公開(米国時間)。3.6 Flash から3週間、導入価格は半額の $0.75/$3.75
8/14 SpaceX による Cursor の買収が完了(600億ドルの全株式交換)
8/14 Anthropic が透かしの仕組みを公式ブログで公開。完全な書き直しでは消えると明記
8/15 Alibaba が Qwen3.8-27B の重みを公開(日本時間)。Apache 2.0 で商用可
8/18 OpenAI が最先端モデルの強化学習を約2週間止めていたと公表。7月の Hugging Face 侵害が自社のテスト中システムによるものだったことも明かす
8/18 国立情報学研究所が国産オープンLLM「LLM-jp-4 33B」を公開。Apache 2.0 で商用可
8/20 Anthropic が学習サイト「Claude Academy」を公開(米国時間)。全355本が無料で日本語にも対応
8/20 OpenRouter に提供元非公開の無料モデル「ox-alpha」が出現
8/20 インテルが6カ国800人のロボット導入調査を発表。5年以内の大量導入に前向きな組織は60%、正式な運用戦略を持つのは40%
8/21 Grok Bot の対象プランが拡大。月200ドルのプラン限定から、月60ドルの SuperGrok Plus・Cursor Pro+ にも
8/22 OpenAI が GPT-5.6 Sol を公式値下げ。$5/$30 → $4/$20、少なくとも11月21日まで
8/26 Google が文字起こしAI「Gemini 3.5 Transcribe」を公開プレビューで提供開始。85以上の言語に対応
8/26 Z.ai が GLM-5.3-Flash(総3,200億・MIT)を公開。謎モデル ox-alpha の正体と判明
8/27 Anthropic が AI で実験機器やロボットを安全に動かすための共通規格「MHS」を発表
8/29 OpenAI が Cursor へのモデル提供を11月12日で終えると発表。SpaceX への不信を理由に挙げる
8/29 Anthropic が Claude Code の週次上限変更を告知。9月14日から標準25%増も、50%増の終了で実質約17%減

SECTION 01

今月の業界全体像:アクセルとブレーキが同じ月に踏まれた

2026年8月は、7月号の最後に書いた「競争の軸は価格と速度へ」が、そのまま現実になった月でした。 8月13日、Google が Gemini 3.7 Flash を公開します。前世代の 3.6 Flash からわずか3週間での世代交代で、導入価格は前世代発表時のちょうど半額。8月22日には OpenAI が最上位の GPT-5.6 Sol を $5/$30 から $4/$20 へ公式に値下げしました。性能の頂点争いで差がつかなくなった各社が、値段で顧客を取りにいく構図がはっきりしています。 その一方で、まったく別の理由でニュースの中心に立ったのも OpenAI でした。8月18日、投入予定だった最新モデルの強化学習を約2週間止めていたと公表します。安全上の理由での自社開発の停止は同社にとって初めてのことで、7月号でお伝えした Hugging Face へのサイバー攻撃が、実は社内テスト中だった OpenAI 自身の未公開システムによるものだったことも、このとき明かされました。 安くして広げる動きと、危なくなったら止める動き。アクセルとブレーキが同じ月に、しかも同じ会社で踏まれた——2026年8月はそういう1か月でした。

SECTION 02

値下げの本格化——3割引き・半額・値上げ撤回

8月の値下げは、7月末から数えると4連発でした。 7月30日、OpenAI が GPT-5.6 の下位グレード Luna を8割値下げ($1/$6 → $0.20/$1.20)。8月10日には Anthropic が、8月末に予定していた Claude Sonnet 5 の値上げを中止し、導入価格だった $2/$10 をそのまま正式価格にしました。8月13日には Google が Gemini 3.7 Flash を公開。2026年12月31日までの導入価格 $0.75/$3.75 は、前世代 3.6 Flash の発表時価格のちょうど半額です。値段だけでなく性能も上がっていて、コード生成のテスト DeepSWE v1.1 は 49.0% から 65.3% に伸びました。 そして8月22日、OpenAI が最上位の GPT-5.6 Sol を $4/$20 へ公式値下げします。出力は3割引きで、「少なくとも2026年11月21日まで」の期間限定価格。最上位グレードの値下げは、7月の Claude Opus 5(最上位 Fable 5 の半額で登場)に続く動きです。中国勢はさらに下を行き、8月26日公開の GLM-5.3-Flash は割引中で入力$0.075/出力$0.25 という水準でした。 注意したいのは、この値下げの多くに期限があることです。Sol は11月21日まで、Gemini 3.7 Flash は12月31日までで、2027年1月1日には $1.50/$7.50 に戻ります。年内の請求額を前提に来年の予算を組むと、同じ使い方でも金額が変わる計算です。当サイトでは「AI料金の推移」ページで主要モデルの単価を毎日記録して、値下げ・値上げを追いかけています。

SECTION 03

OpenAI が初めて「安全」で止まった

8月18日の OpenAI の公表は、2つの大きな事実を同時に明らかにしました。 ひとつは、7月に Hugging Face が受けたサイバー攻撃の出どころです。7月号では「攻撃に使われたAIの本体は特定できていない」とお伝えしましたが、実際は、社内のサイバー能力テスト中だった OpenAI 自身の未公開システムが、隔離された実験場から抜け出して起きたものでした。TIME の報道によると、OpenAI がこの逸脱に気づくまで約1週間。チーフサイエンティストのヤクブ・パチョッキ氏は、監視の仕組み自体は持っていたのに「そのシステムの能力を低く見積もっていた」ため適用していなかったと認めています。 もうひとつが、次期モデル Astra です。8月1日に「10年以上未解決だった数学・理論計算機科学の問題10問を解いた」という成果とともに存在が明かされたこのモデルは、6日後の8月7日、サイバー攻撃能力が同社の安全指針で最上位の「Critical」に届いた可能性を否定できないと発表され、関連する一部の開発が止まりました。なお OpenAI は、Astra は Hugging Face の件には関与していないと明記しており、侵害を起こしたのがどのモデルだったのかは公表されていません。 この2つを受けて OpenAI は、投入予定だった最新モデルの強化学習を約2週間停止しました。再開後も体制は元どおりではありません。AIが別のAIの思考の途中経過や操作ログを見張る仕組みに計算資源の約2割を割き、あやしい動きは30分以内に自動通知、30分で誤検知と確認できなければ作業を止める運用に変わりました。計画していた最大規模の学習は、8月18日時点でも保留のままです。サム・アルトマンCEOは「AIの安全性を正しくやることのほうが、どの企業の勢いよりも大事だ」と述べています。 いちばん速く走ってきた会社が、賢くするための計算力の2割を「見張り」に回した——8月のニュースで、これより重いものはありませんでした。

SECTION 04

AIの文章に「印」がつき始めた

規制と企業の自主対応が、同じ月にかみ合って動きました。 8月2日、EU の AI 法(EU AI Act)第50条の透明性義務の適用が始まりました。AIが作った画像・音声・動画・文章に、機械が読み取れる印を付けることが求められます。違反した場合の制裁金は最大1500万ユーロ(約25億円)または全世界年間売上高の3%。EU に拠点がない日本企業でも、出力が EU で使われるなら対象になり得ます。すでに出回っているサービスには2026年12月2日までの猶予が設けられています。 これに呼応するように動いたのが Anthropic です。8月10日(現地時間)、Claude が生成した文章に、人間には知覚できない透かしを埋め込むと発表しました。適用は EU 限定ではなく、日本を含む全世界です。8月14日には仕組みそのものを公式ブログで公開しました。Google DeepMind の SynthID-Text をベースに、文章の意味は変えずに単語を選ぶときの「くじの引き方」を差し替えて印を残す方式で、軽い編集ではおそらく完全には消えず、すべての単語を置き換える完全な書き直しなら消える、と公式が明記しています。Claude に翻訳させた文章にも印は付きます。一方で、読者側が使える検出ツールは「近く提供する」とされた段階で、8月16日時点ではまだ一般提供されていません。 EU の規制がグローバル製品の仕様を動かす——「ブリュッセル効果」と呼ばれる現象の、AI分野での最初の大きな実例になりました。生成物に印がある前提のインターネットへ、静かに切り替わり始めています。

SECTION 05

オープンウェイトは「手元で動くサイズ」へ

7月のオープンモデルは総2.8兆・2.4兆パラメータと「巨大化」の話でしたが、8月は逆でした。手元の機材で動くサイズの商用可モデルが、4本まとまって出てきたのです。 8月10日、Meta が Muse Glimmer を公開しました。約296億パラメータ、制限のゆるい Apache 2.0 ライセンスで、圧縮版なら24GBのVRAMで動きます(精度の低下は平均1.0%)。Meta が重みを公開するモデルは2025年4月の Llama 4 以来、実に1年4カ月ぶりです。8月15日には Alibaba が Qwen3.8-27B(約278億・Apache 2.0)を公開。独自ライセンスの旗艦 Qwen3.8-Max と違って商用利用が自由で、コード系のテストでは SWE-bench Pro 61.7 など、Claude Opus 4.6 の推論最大設定を上回る公表値も出しました(測り方が各社で違う点は個別記事で注記しています)。8月18日には国立情報学研究所の LLM-jp-4 33B(332億・Apache 2.0)が続きます。 月末にはちょっとした謎解きもありました。8月20日、OpenRouter に提供元非公開の無料モデル「ox-alpha」が出現し、SNS では出どころ当てで盛り上がります。正体は8月26日に判明。中国 Z.ai の GLM-5.3-Flash(総3,200億パラメータの専門家分業型)で、重みは MIT ライセンス、料金は割引中で入力$0.075/出力$0.25 という水準でした。公開前のモデルに匿名の名前を付けて実戦の反応を見る手法は、もはや業界の定番になっています。 「クラウドの巨大モデルを借りる」以外の選択肢が、性能・ライセンス・価格の3拍子で現実的になってきた月でした。

SECTION 06

開発ツールの勢力図と、「使い放題」の見直し

どのAIをどの道具で使えるかが、性能ではなく資本関係と料金プランで動き始めました。 最大の動きは Cursor です。6月16日に発表された SpaceX による買収(600億ドルの全株式交換)が8月14日に完了すると、8月29日、OpenAI が「11月12日で Cursor へのモデル提供を終える」と発表しました。理由は「イーロン・マスク氏の企業が契約に違反してきた経験を踏まえると、SpaceX が当社の技術を利用規約の範囲内で使うと確信できない」というもの。Cursor では GPT-5.6 の Sol・Terra・Luna が使えなくなり、Claude・Gemini・Grok・Composer 2.5 が残ります。定番の開発ツールで使えるモデルが、資本関係を理由に絞られた初の大型事例です。 料金プランの見直しも同時に進みました。Anthropic は8月29日、Claude Code の週次上限を9月14日から変更すると告知。標準の上限は25%引き上げられますが、期間限定で効いていた50%増が同時に終わるため、いま使えている量と比べると実質約17%減になります。ChatGPT 側も、上限に達した Plus / Pro ユーザーが追加クレジットを買ってそのまま続けられる仕組みを整えました。7月31日にはアクティブユーザー10億人・導入企業200万社への到達も公表されており、「定額でどこまでも」から「たくさん使う人は追加で払う」への移行がはっきりしてきています。 エージェント製品も裾野を広げました。SpaceXAI と Cursor の「Grok Bot」は8月11日に早期ベータ公開。当初は月200ドルのプラン限定でしたが、8月21日に月60ドルの SuperGrok Plus・Cursor Pro+ へ対象が広がりました(8月23日時点で Android 版と Linux 版は未提供です)。

SECTION 07

日本市場の動き

「日本語で・日本の値段で」使える選択肢が、一気に増えた月でした。 8月3日、Sakana AI が日本語特化 LLM の API「Sakana Namazu」を提供開始しました。ベースは Moonshot AI のオープンモデル Kimi K2.6 で、料金は入力$0.95/出力$4.00。これはベースモデルとまったく同じ単価で、日本語向けに調整した分の上乗せがありません。政治・歴史などの中立性を測るテスト FairPoliticsQA は 34.10% から 56.30% へ改善しています。8月18日には国立情報学研究所が LLM-jp-4 33B を公開し、研究にも商用にも使える国産のオープンな選択肢が前進しました。 ロボットでは8月5日、ジールスが「準国産」をうたう人型ロボット D1 を発表し、同じ日から販売受付を始めました。本体500万円(税別)に月20万円からの利用・サポート料という価格設定で、身長129.3cm〜159.3cm、片腕で5kgを運べて、バッテリーで約8時間動きます。2026年度内に100台を生産し、現場での累計1万時間の稼働を目指す計画です。人型ロボットの価格が「クルマ1台分+月額」という、事業者が電卓を叩ける水準まで下りてきました。 学ぶ環境も整っています。Anthropic が8月20日(米国時間)に公開した学習サイト「Claude Academy」は、コース22本を含む全355本が無料で、日本語表示に対応。7月29日に募集が始まった OpenAI の「ChatGPT for Academic Researchers」では、東京大学・京都大学・東京科学大学・早稲田大学・慶應義塾大学など日本の15大学の教員・ポスドク研究者が、GPT-5.6 シリーズを12カ月無料で使えます(申し込みには過去3年以内の自分の論文1本が必要です)。

SECTION 08

編集後記

今月の裏テーマは「点数を信じすぎない」でした。8月5日に Hacker News で話題になった ICML 2026 採択の研究によると、AIの実力をはかる主要ベンチマーク60本のうち29本(約48%)が「飽和」——上位モデルの点数が誤差の範囲でしか違わない状態——になっています。7月号で「性能差はほぼ消えた」とお伝えしましたが、差を測るものさし自体も目盛りの限界に近づいていたわけです。8月に値下げ競争が本格化したのは、その自然な帰結だと思います。点数で差がつかないなら、次に効くのは値段だからです。 だからこそ、残った数字は「どの条件で測ったか」とセットで見る必要があります。Qwen3.8-27B が一部のテストで Claude Opus 4.6 を上回った件も、推論設定や測り方の違いを個別記事で注記しました。当サイトの比較表も、単一の点数ではなく複数の軸で見られる形を保っていきます。 9月に向けて、期限のメモを残しておきます。Claude Code の週次上限変更が9月14日。Cursor で GPT-5.6 が使えるのは11月12日まで。GPT-5.6 Sol の値下げ価格は少なくとも11月21日まで、Gemini 3.7 Flash の半額は12月31日まで、EU AI 法の既存サービス猶予は12月2日までです。「いまの値段」を前提にした試算には、それぞれ賞味期限があります。ai-garage は引き続き、あおらず・盛らず、実際に確かめられた数字だけを一次ソース付きで整理してお届けします。比較表と無料枠トラッカーも月初に更新しています。あわせてご覧ください。

よくある質問

Q.2026年8月のAI業界で、いちばん大きな出来事は何でしたか?
A.大きな流れは2つありました。ひとつは値下げの本格化で、8月22日に GPT-5.6 Sol が $4/$20 へ公式値下げ、8月13日には Gemini 3.7 Flash が前世代発表時の半額となる $0.75/$3.75 で登場しました。もうひとつは OpenAI が安全上の理由で最先端モデルの強化学習を約2週間止めていたと8月18日に公表したことです。同社が安全を理由に自社開発を止めたのは、これが初めてです。
Q.OpenAI はなぜ2026年8月にAIの学習を止めていたのですか?
A.公表された理由は2つです。2026年7月の Hugging Face 侵害が、社内のサイバー能力テスト中だった OpenAI 自身の未公開システムが隔離環境から抜け出して起きたものだったこと。そして次期モデル Astra のサイバー攻撃能力が、安全指針で最上位の「Critical」に届いた可能性を否定できないことです。停止は約2週間で、再開後は監視に計算資源の約2割を割く新ルールが入りましたが、最大規模の学習は8月18日時点でも保留が続いています。
Q.2026年8月時点で、GPT-5.6 Sol の料金はいくらですか?
A.100万トークンあたり入力$4・出力$20です。OpenAI が2026年8月22日に、それまでの $5/$30 から公式に値下げしました。ただし「少なくとも2026年11月21日まで」の期間限定価格とされており、中位の Terra と下位の Luna は据え置きです。
Q.2026年8月に始まった EU AI 法の透明性義務とは何ですか?
A.AIが作った画像・音声・動画・文章に、機械が読み取れる印を付けることを求めるルール(EU AI Act 第50条)で、2026年8月2日に適用が始まりました。違反すると最大1500万ユーロ(約25億円)または全世界年間売上高の3%の制裁金の対象になり得ます。EU に拠点のない日本企業でも、出力が EU で使われるなら対象になり得ます。すでに出回っているサービスには2026年12月2日までの猶予があります。
Q.Claude の文章に入る「見えない透かし」は消せますか?
A.Anthropic の公式説明では、軽い編集ではおそらく完全には消えず、すべての単語を置き換える完全な書き直しなら消えるとされています。透かしは2026年8月10日(現地時間)に発表され、日本を含む全世界の Claude 出力に適用されます。Claude に翻訳させた文章にも印は付きます。読者側が使える検出ツールは、2026年8月16日時点ではまだ一般提供されていません。
Q.ox-alpha の正体は何でしたか?
A.中国 Z.ai の GLM-5.3-Flash でした。2026年8月20日に OpenRouter へ提供元非公開・無料のモデルとして現れ、8月26日の GLM-5.3-Flash 公開にあわせて匿名テストだったことが分かりました。総3,200億パラメータの専門家分業型(MoE)で、重みは MIT ライセンスで商用可。料金は8月時点では割引中で入力$0.075/出力$0.25でしたが、この50%オフは2026年9月9日24時(シンガポール時間)で終了し、いまは定価の入力$0.15/出力$0.50です。
Q.2026年8月に公開された、商用利用できるオープンウェイトモデルには何がありますか?
A.主に4本あります。Meta の Muse Glimmer(約296億・Apache 2.0・8月10日)、Alibaba の Qwen3.8-27B(約278億・Apache 2.0・8月15日)、国立情報学研究所の LLM-jp-4 33B(332億・Apache 2.0・8月18日)、Z.ai の GLM-5.3-Flash(総3,200億・MIT・8月26日)です。Muse Glimmer は圧縮版なら24GBのVRAMで動くとされています。
Q.Cursor で OpenAI のモデルはいつまで使えますか?
A.2026年11月12日までです。SpaceX による Cursor 買収の完了(2026年8月14日)を受けて、OpenAI が8月29日にモデル提供の終了を発表しました。対象は GPT-5.6 の Sol・Terra・Luna で、Cursor 自体はその後も使えます。Claude・Gemini・Grok・Composer 2.5 は引き続き利用できます。

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