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MONTHLY REPORT 2026年7月号

最上位が3つ揃い、AIの主戦場は“値下げ”へ——Fable 5 復活・GPT-5.6 一般提供・Opus 5 は半額でほぼ互角

6月に凍結された Claude Fable 5 が7月1日に復活、9日に GPT-5.6 が一般公開、24日には「Fable 5 級を半額」の Claude Opus 5 が登場しました。最上位が3つ並んだ結果、性能差は1点差まで縮み、競争の軸は価格と速度へ移動。その裏で、業務に入り込んだAIエージェントの情報漏えいも現実になった1か月です。

公開:2026-08-01 / 執筆:Seiya Yagashiro(編集長)

この記事の要点

  • 最上位クラスが3つ出そろった月。7月1日に Claude Fable 5 が凍結から復活、7月9日に GPT-5.6(Sol / Terra / Luna)が一般公開、7月24日に Claude Opus 5 が登場した。
  • 性能差はほぼ消えた。GPT-5.6 Sol は Intelligence Index v4.1 で 58.9点、Fable 5 は 59.9点で差は1点。Opus 5 は CursorBench 3.2 の最大 effort で Fable 5 のピークとの差が0.5%。
  • 競争の軸は価格へ。Opus 5 は Fable 5 の半額(入力$5/出力$25)、Grok 4.5 は $2/$6、Gemini 3.6 Flash は出力を $9 → $7.5 に値下げした。
  • オープンウェイトは巨大化と小型化に二極化。Kimi K3 が総2.8兆パラメータ、Qwen3.8-Max が総2.4兆、Inkling が975B。一方 Bonsai 27B は3.9GBまで圧縮してスマホ内で動く。
  • エージェントが職場に入り、同じ月に事故も出た。GitHub の AI エージェントが公開Issueの指示で private コードを漏らし、Hugging Face は自律型AIによるサイバー攻撃を受けた。

KEY METRICS

今月のキー数字

$5 / $25

最上位級モデルの価格

7/24 公開の Claude Opus 5(100万トークンあたり入力/出力)。最上位 Fable 5 の $10 / $50 のちょうど半額で、ベンチはほぼ互角

1.0点

頂点争いの点差

GPT-5.6 Sol 58.9 に対し Claude Fable 5 は 59.9(Intelligence Index v4.1)。勝ち負けはベンチごとに入れ替わる誤差の範囲へ

2.8兆

オープン最大モデル

7/16 公開の Kimi K3 の総パラメータ数(MoE・100万トークン)。7/19 には Qwen3.8-Max 2.4兆もプレビュー公開

27,500基

国産AI基盤のGPU

44社出資の Noetra が積む NVIDIA Rubin。2030年度に実世界で動くフィジカルAIの完成を目指す

HIGHLIGHTS

今月のハイライト

01

Claude Opus 5 が「Fable 5 級の頭脳を半額で」登場

7/24(米国時間)公開。入力$5/出力$25 は最上位 Fable 5 の半額で、前世代 Opus 4.8 と同額。CursorBench 3.2 の最大 effort では Fable 5 のピークとの差わずか0.5%、Frontier-Bench では Opus 4.8 の約2倍。ふるまいの評価(アラインメント)も歴代最良としています。

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02

凍結されていた Fable 5 が7月1日に復活、料金は据え置き

6月に米政府の輸出管理で全停止した最上位モデルが、商務長官の書簡で規制解除されグローバル復活。料金は停止前と同じ入力$10/出力$50。政府に4つの条件を約束したうえでの再開でした。

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03

GPT-5.6(Sol / Terra / Luna)が一般公開、Sol は1点差まで肉薄

7/9 に一般提供開始。最上位 Sol は Intelligence Index v4.1 で 58.9点と Fable 5(59.9点)に1点差ながら、所要時間は61%短く推定コストは約半分。SWE-Bench Pro では Fable 5 に譲るなど、得意分野がはっきり分かれました。

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04

Grok 4.5 が入力$2/出力$6 の“価格破壊”で参入

SpaceXAI(旧xAI)が7/8 発表・9日提供開始。Artificial Analysis の Intelligence Index で54点・全体4位につけながら、フロンティア級としては突出した安さ。イーロン・マスク氏は「Opus級」と表現しました。

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05

Kimi K3 が総2.8兆パラメータで公開、Qwen3.8-Max も2.4兆でプレビュー

Moonshot AI が7/16 に世界最大級のオープンMoEモデル Kimi K3(100万トークン)を公開。その3日後には Alibaba が次期旗艦 Qwen3.8-Max(総2.4兆)をプレビュー公開し、中国系オープン勢の連続攻勢が続きました。

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06

国内44社の Noetra が始動、NVIDIA Rubin を2万7500基

7/16、経産省・NEDO 主導の国産マルチモーダル基盤モデル「FRONTia」がキックオフ。ソフトバンク・NEC など大手44社が出資し、2030年度に実世界で動く「フィジカルAI」の完成を目指します。

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07

AIが“同僚”になる製品が相次いだ:Claude Tag・Record a skill・Gemini Spark

Claude を Slack に常駐させて数日がかりの仕事を任せる Claude Tag、画面録画から手順をスキル化する Record a skill(7/21)、電源を切っても動き続ける Gemini Spark の日本提供開始(7/16)。AIの居場所が「チャット窓」から「職場」へ移りました。

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08

公開Issueの一文で、AIエージェントが private コードを漏らした

セキュリティ企業 Noma Labs が7/6 に公開した検証「GitLost」。GitHub Agentic Workflows のエージェントを、公開Issueに仕込んだ隠しコマンドで操り、非公開リポジトリの中身を公開コメントに出力させました。間接プロンプトインジェクションの実例です。

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09

Hugging Face が自律型AIの攻撃を受け、守る側は安全装置に阻まれた

7/16 公表。防御にAIを使おうとしたところ、各社の最上位モデルは安全の歯止めが働いて攻撃コードの解析を拒否。最終的に中身が公開された GLM 5.2 を自社サーバーで動かして対応しました。攻撃側と防御側の非対称が表面化しています。

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10

Oracle が2万1000人削減、その先に立ちはだかったのは“電力”

従業員は1年で16万2000人から14万1000人へ。当局提出書類には「AI技術の導入・展開が人員削減につながった」と明記。浮かせた資金をデータセンターに投じたものの、ウィスコンシン州では送電に70億ドル超の担保を求められ足止めになりました。

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11

人間が2年見つけられなかった暗号の弱点を、AIが60時間で発見

7/28 公開の Anthropic 研究。耐量子署名 HAWK に対し、Claude Mythos が60時間・API利用料およそ10万ドルで攻撃を発見。HAWK-256 の攻撃コスト見積もりは 2^64 演算から 2^38 演算に下がりました。

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TIMELINE

2026年7月に何があった?

日付 出来事
7/1 Anthropic が Claude Fable 5 の提供を再開。米政府の輸出規制が解除され、料金は $10 / $50 で据え置き
7/4 マイクロンが広島工場で新製造棟の起工式。総投資1兆5000億円、HBM などを2028年中ごろから生産
7/6 Noma Labs が検証「GitLost」を公開。公開Issueの隠し命令で GitHub のAIエージェントが private コードを漏えい
7/6 カナダ・アルバータ州政府の事例が公開。4億6600万行のコードを Claude が約20時間で点検(人手なら6年半)
7/8 SpaceXAI が Grok 4.5 を発表(翌9日に一般提供)。入力$2/出力$6 の低価格フロンティア
7/9 OpenAI が GPT-5.6(Sol / Terra / Luna)を一般公開。Sol は Fable 5 と1点差
7/10 Apple が OpenAI を提訴。元社員2名による企業秘密の持ち出しを主張
7/10 Meta が Muse Image の「他人をAI画像化」機能を撤回。公開から数日で炎上
7/13 AIdeaLab がアニメ動画生成AI「AnimeGen」を Apache-2.0 で無償公開(商用可)
7/14 孫正義氏が SoftBank World 2026 で2040年像を提示。AIエージェント100兆個、人型ロボット10億台
7/15 Thinking Machines Lab が初モデル Inkling(総975B・アクティブ41B)をオープンウェイト公開
7/15 PrismML が Bonsai 27B を公開。1-bit量子化で3.9GBに圧縮し、スマホ内で動作
7/16 Moonshot AI が Kimi K3 を公開。総2.8兆パラメータのオープンMoE、100万トークン対応
7/16 国内44社出資の Noetra が始動。NVIDIA Rubin を2万7500基そろえる計算基盤へ
7/16 Google が Gemini Spark を日本で提供開始(Ultra 向けβ、月額1万4500円〜)
7/16 Hugging Face が自律型AIエージェントによるサイバー攻撃を受けたと公表
7/16 ニューヨーク市が賃貸広告のAI生成・加工画像に開示を求める勧告を発表
7/19 Alibaba が次期旗艦 Qwen3.8-Max(総2.4兆パラメータ)をプレビュー公開
7/21 Google が Gemini 3.6 Flash ほか3モデルを公開。出力料金は $9 → $7.5、本命 Pro は再び見送り
7/21 Anthropic が「Record a skill」を発表。画面録画と音声解説から再実行できるスキルを生成
7/21 Block が人とAIが同じ場所で働くワークスペース「Buzz」を公開
7/23 Microsoft が GitHub Copilot・Excel の AI を自社モデル「MAI」へ切り替え中と公表
7/24 Anthropic が Claude Opus 5 を公開。入力$5/出力$25 で Fable 5 の半額
7/24 NVIDIA・Microsoft・Meta ら約25社がオープンウェイト擁護の書簡。Anthropic は不参加
7/28 Anthropic が Claude Mythos による暗号解析を公開。HAWK の攻撃コストを 2^64 → 2^38 に
7/29 ARC-AGI-3 で「考えを残す」設定と compaction を併用し、スコア3倍・出力トークン6分の1を記録

SECTION 01

今月の業界全体像:最上位が3つ並んだ月

2026年7月は、「いちばん賢いモデル」がひと月のうちに3つ出そろった月でした。 まず7月1日、6月に米政府の輸出管理で全停止していた Anthropic の最上位 Claude Fable 5 が復活します。商務長官の書簡で規制が解除され、料金は停止前と同じ入力$10/出力$50に据え置かれました。続く7月9日、OpenAI が GPT-5.6 を一般公開。6月時点では限定パートナー向けのプレビューでしたが、最上位 Sol・中位 Terra・下位 Luna の3グレードが正式提供に入りました。そして7月24日(米国時間)、Anthropic が Claude Opus 5 を公開します。 注目すべきは、この3つの実力差がほとんどなくなったことです。GPT-5.6 Sol は総合指標 Intelligence Index v4.1 で58.9点、Fable 5 は59.9点。差は1点です。Opus 5 は CursorBench 3.2 のいちばんじっくり考えさせる設定で、Fable 5 のピークとの差がわずか0.5%。ベンチマークごとに勝者が入れ替わり、「どれが一番か」を一言で言えない状態になりました。 差がつかなくなると、選ぶ基準は別のところへ移ります。7月はそれが、はっきりと価格でした。

SECTION 02

値段が主戦場になった

7月に出た数字を並べると、値下げの流れが一目でわかります。 Claude Opus 5 は100万トークンあたり入力$5/出力$25。最上位 Fable 5($10/$50)のちょうど半額で、しかも前世代 Opus 4.8 と同じ価格です。「値段は据え置きのまま、中身だけ大きく賢くなった」形になります。SpaceXAI(旧xAI)が7月8日に発表した Grok 4.5 はさらに安く、入力$2/出力$6。第三者機関 Artificial Analysis の Intelligence Index で54点・全体4位につけながら、フロンティア級としては突出した安さで出てきました。Google も7月21日、主力の Gemini 3.6 Flash で出力トークンを約17%減らしたうえ、出力料金を$9から$7.5へ引き下げています。 一方で、安さには期限もあります。Claude Sonnet 5 の導入価格($2/$10)は8月31日で終了し、9月からは標準の$3/$15に戻る予定でした(※2026年8月10日にこの値上げは中止され、$2/$10がそのまま正式価格になりました。Opus 5 との2.5倍差は続きます)。いま試算しているコストが「割引前提」になっていないかは、この機会に確かめておくと安全です。

SECTION 03

オープンウェイトは「巨大化」と「手のひら化」に割れた

中身(重み)を公開するモデルの動きは、7月に両極へ振れました。 大きいほうでは、Moonshot AI が7月16日に Kimi K3 を公開。総パラメータ2.8兆の専門家分業型(MoE)で、扱える文脈は100万トークンという世界最大級です。その3日後の7月19日には Alibaba が次期旗艦 Qwen3.8-Max(総2.4兆)をプレビュー公開しました。7月15日には、元 OpenAI の技術トップだったミラ・ムラティ氏が率いる Thinking Machines Lab が、初のモデル Inkling(総975B・アクティブ41B)をオープンウェイトで公開しています。 小さいほうも同じ月でした。Caltech 発の PrismML が公開した Bonsai 27B は、270億パラメータの重みを「−1/+1」の2値に潰す1-bit量子化で3.9GBまで圧縮。クラウドにつながずスマートフォンの中で動かして、元モデルの90〜95%の性能を保つとしています。大きくして賢さを取りにいく方向と、小さくして手元で動かす方向が、同時に前へ進んだ月でした。 制度の面でも動きがあります。7月24日、NVIDIA・Microsoft・Meta など約25社が「Open Weights and American AI Leadership」と題した書簡を公開し、のちに OpenAI と Google も加わって署名者は約50に。ただし Anthropic の名前は最後まで並びませんでした。

SECTION 04

エージェントが職場に入り、同じ月に事故も出た

7月は、AIが「相談相手」から「同僚」に変わる製品が続けて出てきました。 Anthropic の Claude Tag は、Claude を Slack のチームメンバーとして常駐させる機能です。指定したチャンネル・ツール・コードベースにアクセスし、数時間から数日かかる仕事を自律でこなします(Enterprise / Team 向けベータ)。同社は、社内の製品チームのコードの65%を内部版が書いていると公表しました。7月21日には、画面を録画して音声で説明するだけで一連の操作を再実行できる形にする「Record a skill」も発表。同じ日、ジャック・ドーシー氏の Block が、人とAIが同じ場所で働くワークスペース「Buzz」を公開しています。Google は7月16日、電源を切ってもクラウド側で動き続けるパーソナルエージェント Gemini Spark を日本で提供開始しました。 その一方で、事故も同じ月に起きています。セキュリティ企業 Noma Labs が7月6日に公開した検証「GitLost」では、公開Issueに仕込んだ隠しコマンドで GitHub のAIエージェントが操られ、非公開リポジトリの中身を公開コメントに漏らしました。外部から入ってきた文章に指示が紛れ込む、間接プロンプトインジェクションと呼ばれる手口です。7月16日には Hugging Face が自律型AIエージェントによるサイバー攻撃を受けたと発表。防御にもAIを使おうとしたものの、各社の最上位モデルは安全のための歯止めが働いて攻撃コードの解析を拒み、最終的に中身が公開されている GLM 5.2 を自社サーバーで動かして対応しました。攻撃側はルールを無視でき、守る側は安全装置に縛られる——この非対称が、7月にはっきり表に出ました。 エージェントを業務に入れるなら、便利さと同じ熱量で「外から来た文章の指示には従わせない」設計が要ります。権限を絞る、実行前に人が承認する、読み取り先を限定する——地味ですが、7月の事例はどれもここで止められたはずのものでした。

SECTION 05

電力・メモリ・人——AIの足元にあるコスト

性能とサービスの話題の裏で、7月は「それを支える現実」が目立ちました。 Oracle は1年で従業員が16万2000人から14万1000人へ、2万1000人(約13%)減りました。当局への提出書類には「AI技術の導入・展開が人員削減につながった」と明記されています。そうして浮かせた資金をAIデータセンターに投じたところ、今度はウィスコンシン州で「送電するなら70億ドル超の担保を出すように」と求められて足止めに。信用格付けが BBB- まで下がったことが理由でした。AIに投資するために人を減らし、その投資が電力インフラの前で止まる——という順番になっています。 半導体側も動いています。マイクロンは7月4日、広島工場で新しい製造棟の起工式を実施しました。総投資額は1兆5000億円で、日本政府から最大5360億円の補助金が付き、生産開始は2028年中ごろの予定です。作るのはAIに欠かせないHBM(高帯域幅メモリ)やDDR5など。計算する部品だけでなく、記憶する部品の不足がAIの伸びを縛り始めています。

SECTION 06

日本市場の動き

国産AIの「作り手」が、形になって前に出た月でした。 7月16日、国内大手44社が共同出資する国産AI開発企業 Noetra(ノエトラ)が本格始動しました。経済産業省・NEDO が主導する国産マルチモーダル基盤モデル「FRONTia(フロンティア)」のキックオフで、NVIDIA の次世代GPU「Rubin」を2万7500基そろえた計算基盤を作り、2030年度に実世界で動く「フィジカルAI」の完成を目指します。発表には NVIDIA のジェンスン・フアンCEOも登壇しました。 小回りの利く動きもあります。AIdeaLab は7月13日、アニメ特化の動画生成AI「AnimeGen」の正式版を Apache-2.0 ライセンスで無償公開。商用利用も可能で、経産省・NEDO の GENIAC 支援プロジェクトでもあります。Google の Gemini Spark 日本提供開始も同じ7月16日でした。 一方、現場では課題も見えています。中小企業からは「1カ月分の予算が1週間で消えた」といった費用まわりのつまずきが報告されており、導入の速さに運用設計が追いついていません。使い始めるハードルが下がったぶん、上限の設定や権限の切り分けといった地味な準備が効いてくる段階に入っています。

SECTION 07

編集後記

今月いちばん印象に残ったのは、7月28日に公開された Anthropic の暗号研究でした。標的は、量子コンピュータ時代に備えて NIST が選考していた署名方式 HAWK。2年間で2回の専門家チェックを通り抜けていたのに、Claude Mythos は60時間・API利用料およそ10万ドルで「鍵の強さが実質半分になる」攻撃を見つけました。攻撃コストの見積もりは 2^64 演算から 2^38 演算へ。ベンチマークの点数ではなく、人間が2年見つけられなかったものを実際に見つけた、という具体的な成果です。 その一方で、7月のニュースを並べていて強く感じたのは「賢さの差はもう小さい」ということでした。1点差、0.5%差を争うところまで来てしまえば、次に効いてくるのは値段と速度、そして安全に運用できるかどうかです。GitLost や Hugging Face の一件は、エージェントを業務に入れる前にやっておくべき設計を、痛みを伴う形で教えてくれました。 8月は期限が2つあります。Claude Opus 4.1 の提供終了が8月5日、Sonnet 5 の割引終了が8月31日(※後者は2026年8月10日に撤回され、$2/$10がそのまま正式価格になりました)。いまの試算が割引前提になっていないか、8月のうちに確認しておくと安心です。ai-garage は引き続き、あおらず・盛らず、実際に使えるようになったものを一次ソース付きで整理してお届けします。比較表とコスパの集計も月初に更新しました。あわせてご覧ください。

よくある質問

Q.2026年7月のAI業界で、いちばん大きな出来事は何でしたか?
A.最上位クラスのモデルが3つ出そろったことです。6月に米政府の輸出規制で凍結されていた Claude Fable 5 が7月1日に復活し、7月9日に OpenAI の GPT-5.6(Sol / Terra / Luna)が一般公開、7月24日には Anthropic が Claude Opus 5 を公開しました。性能差がほぼ横並びになり、競争の軸が価格と速度に移った月です。
Q.Claude Opus 5 と Claude Fable 5 は、どちらを使えばいいですか?
A.コストを重視するなら Opus 5 です。Opus 5 は100万トークンあたり入力$5/出力$25 で、Fable 5($10/$50)のちょうど半額。CursorBench 3.2 の最大 effort 設定では Fable 5 のピークとの差が0.5%しかありません。ただしサイバーセキュリティや生物学の専門タスクでは Mythos 5 に及ばないと Anthropic 自身が明記しているので、その領域だけは使い分けが必要です。
Q.2026年7月時点で、いちばん安いフロンティア級モデルはどれですか?
A.SpaceXAI(旧xAI)の Grok 4.5 で、100万トークンあたり入力$2/出力$6 です。7月8日発表・9日提供開始で、第三者機関 Artificial Analysis の Intelligence Index では54点・全体4位。イーロン・マスク氏は「Opus級」と表現しています。
Q.GPT-5.6 はいつから誰でも使えるようになりましたか?
A.2026年7月9日に一般公開されました。6月26日のプレビュー時点では限定パートナー向けでしたが、7月に最上位 Sol・中位 Terra・下位 Luna の3グレードが正式提供に。Sol は Intelligence Index v4.1 で58.9点と、Claude Fable 5 の59.9点に1点差まで迫りつつ、所要時間は61%短く推定コストは約半分をうたっています。
Q.Kimi K3 はどれくらい大きいモデルですか?
A.総パラメータ2.8兆の専門家分業型(MoE)で、扱える文脈は100万トークン。2026年7月16日に Moonshot AI が公開した世界最大級のモデルです。同じ月には Alibaba が Qwen3.8-Max(総2.4兆)をプレビュー公開しており、中国系オープンモデルの大型化が続いています。
Q.Noetra(ノエトラ)とは何ですか?
A.国内大手44社が共同出資する国産AI開発企業で、2026年7月16日に本格始動しました。経済産業省・NEDO が主導する国産マルチモーダル基盤モデル「FRONTia」を開発し、NVIDIA の次世代GPU「Rubin」を2万7500基そろえた計算基盤で、2030年度に実世界で動く「フィジカルAI」の完成を目指しています。
Q.2026年8月に料金や提供が変わる予定はありますか?
A.2つありました。Claude Opus 4.1 は8月5日に提供終了。Claude Sonnet 5 の割引価格(入力$2/出力$10)は8月31日に終了して標準の$3/$15に戻る予定でしたが、2026年8月10日にこの値上げは中止され、$2/$10がそのまま正式価格になりました。Opus 5 と Sonnet 5 の価格差は2.5倍のまま続きます。
Q.AIエージェントを業務で使うとき、2026年7月に明らかになったリスクは何ですか?
A.外部から入ってきた文章に指示を仕込まれる「間接プロンプトインジェクション」です。7月6日に公開された検証「GitLost」では、公開Issueに隠した命令で GitHub のAIエージェントが非公開リポジトリの中身を公開コメントに漏らしました。同じ月には Hugging Face が自律型AIエージェントによる攻撃を受けたことも公表しており、権限の最小化と実行前の人の承認が現実的な備えになります。

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